前回1964年の東京五輪で、聖火ランナーを務めた約5千人に提供されたシューズがある。作ったのは、ゴム靴メーカーとして業界トップの地位を占めたアサヒシューズ(福岡県久留米市)。あれから55年。長らく「幻のシューズ」だったが、当時の設計図や現物のシューズが見つかり、復刻版が来春販売される。
「聖火ランナーにシューズを提供したことは、社内でも忘れ去られていました」。復刻版製造のチームリーダーを務める商品企画部長補佐の古賀稔健(としたけ)さん(58)は語る。きっかけは昨夏、前回東京五輪の聖火ランナーを取材していたテレビ局からの問い合わせだった。「御社が聖火ランナーのシューズを提供されたようですが……」
社内に当時を知る社員はほとんどおらず、チームを立ち上げて調査を始めた。だが、現物や設計図がなかった。人づてにたどりついたのが山形県米沢市の田口重之さん(73)だった。
当時高校3年でやり投げをしていた田口さんは、聖火ランナーとして山形県庁前から約1キロを走ったという。55年間、大切な思い出として箱に入れてシューズを保管していた。「とても走りやすくて、全く疲れを感じなかった」
古賀さんが寄贈をお願いしたところ、「靴の幸せを考えると、ふる里であるアサヒシューズに帰るのが一番」と田口さんは快諾。今年4月、古賀さんらが田口さん宅を訪れ、当時のシューズを受け取った。
シューズの寄贈と前後して、社内の保管庫にあった当時の靴底の設計図が見つかった。設計図は破棄されるものも多いが、数千種類の設計図の中から、形状から推測して社内の専門職が見つけ出した。
靴底には特徴があった。ゴムが使用されていたが、素材の品質からほとんどクッション性はなく、衝撃が直に足に伝わる作りだった。衝撃を抑えるのと、グリップ力を高めるため、靴底のつま先と、かかとの2カ所に同じゴムを二重に貼り付けた。全面にしなかったのは、少しでも軽くするためだと考えられる。
調べているうちに、最終聖火ランナーの陸上選手、坂井義則さんにシューズを届けたOBが存命であることが分かった。
開会式の2日前、坂井さんから…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル